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「モテる陶山と出かけるとみんなに睨まれるから」と素直に理由を告げると、陶山は「なんだそれ」と明るく笑った。
「そんなこと言ったら、俺だって泉本と出かけたことがバレたらきっと睨まれるよ。少なくとも同じクラスに2人はいるぜ、睨んでくるやつ」
「絶対嘘じゃん」
「本当だって。俺、名前言えるもん」
「本当かなあ」
「俺に対する信頼が全くないなあ……」
下校時間だからか、店内は近くにある別の高校の制服を着た女子高校生たちで少し賑わっている。「同じ高校の奴らがいなくてよかった」と胸を撫で下ろしつつも「入りにくいな」と顔を顰める陶山の背中を押し、お目当ての商品が置かれている場所を探す。
「あ、これこれ。陶山、これだよ~」
想像以上にたくさんの種類があって、そしてかわいいデザインで、付き添いできた私のテンションがあがる。
「これ、色が違うだけ?」
「違うよ! 中に入っているお花だってそれぞれ違うじゃん」
陶山は目の前にある、紫色に染められた花が詰められたボールペンをとると、「全部一緒に見えるんだけど」と眉間に皺を寄せる。
私は目絵の前にあったグリップが白色のボールペンと薄いピンク色のボールペンを手に取ると、
「ほら、白色のお花の方が小さいでしょ?」
「そうかあ?」
どう見たって違うのに、彼はピンとこないらしい。
「まあ、でも確かに中に入っているお花にこだわるよりは、好きな色を選んであげるのがいいんじゃないかな。色の方が目立つからね」
「好きな色……」
少しの間悩んだ後、陶山は私の目の前にあった薄いピンク色のボールペンを手に取った。
「これにする。好きな色、わかんねえけどさ、ピンクは嫌いじゃないと思うし」
「そっか。このピンク色なら淡いから仕事場でも使えるだろうし、いいと思う」
早速レジにボールペンを持っていき、ギフトラッピングをしてもらう。
お店から出ると、陶山は「はーーー」と大きく息を吐き出した。
「これで肩の荷が降りた。マジで助かった。ありがとう」
「いいえ。お役に立てたのならよかった」
「お礼にカフェでジュースでも奢るよ」というありがたい申し出を断り、駅の改札へ向かう。駅にはいくつかカフェがあるけれど、なんせ学校の最寄駅だ。どのお店にも、同じ学校の生徒たちはいるだろう。
「じゃ、本当にありがとう。泉本も何か困ったことがあれば、いつでも相談してな」
「それは心強い。ありがとうね」
手短に挨拶を交わすと、それぞれの電車のホームへ向かった。
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