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最後の一文を送り終えると、肺の中にあった空気を全て吐き出した。
私が送った長文を読み終えた高橋くんが顔をあげる。私よりもずっと辛い思いをしてきたはずなのに、彼の目には涙がうっすら浮かんでいた。
【私もね、前の学校ではずっと一人ぼっちだと感じていた。同じ”孤独”でも、私が経験した”孤独”と、高橋くんが経験してきた”孤独”はきっと全く違うと思う。でも、他の人よりは”孤独”の辛さとか寂しさを知っているつもりだよ。だからね、高橋くんも、一人でいるのが辛い時はいつでも連絡してね。私、そばにいるから】
『役に立つかわからないけれど、苦しい時はいつでも連絡して。一人でいるのが辛かったら、一緒にいるから』
苦しみもがいていた私に言ってくれたように、私も高橋くんが”孤独”を感じた時、そばにいたい。たとえそれが1ヶ月間と期間が限られていたとしても、そばにいて少しでも彼が抱える”孤独”を減らすことができるのなら、そばにいたい。
【高橋くん】
伝えないといけないことがある。
【私、その経験があって、もうピアノは弾きたくないと思った。誰かに自分の演奏を聴かれるのは嫌だと思った。いつしか、ピアノの音を聞くだけで耳を塞ぎたくなった。でもね】
今になって気づく。きっと初めて会った時から、高橋くんは、高橋くんの演奏は、私にとって”特別”だった。
【高橋くんのピアノを初めて聴いた時、『もっと聞きたい』と思った。私の好きなものを、嫌いにさせないでくれてありがとう。私、またピアノ弾きたいって思えたよ】
私が送った文面を、読み切るには十分ほどじっくり見つめてから高橋くんは指を動かした。なんともいえない表情で。
【泉本さん、やっぱりピアノ弾くんだ】
高橋くんはスマートフォンから視線をあげると、しばしの間宙を見上げた。
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