本編

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「この後用事があるから」という鈴木さんは、「お茶でも」と冷蔵庫を覗いた私に「こちらの生活はどうですか? 困ったことはないですか?」と尋ねた。 「はい、今のところは。学校も楽しいです」 「それはよかった。僕としてはせっかく来てもらったのだから『楽しい』と思ってもらえるほど嬉しいことはないですよ」 グラスにお茶と氷を入れて、リビングのテーブルに運ぶ。椅子に座った鈴木さんの前にグラスを差し出すと、鈴木さんは「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。 「私、自分のことを”嫌な奴”だと思っていたんです」 一口お茶を飲んで、テーブルの上に置く。グラスの中で氷がぶつかり、涼やかな音を鳴らした。 「鈴木さんもご存知だと思いますが、私、元の世界で、親友の恋の邪魔をしました。自分にとって、親友の好きな人と関わることは、それほど大きな意味はなかったんです。でも、親友にとっては違った。それをわからずに、親友を傷つけてしまった自分がとても嫌でした。深い意味のない行動で傷つけてしまったからこそ、余計に自分が嫌だったんです。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、私の何気ない行動で、どれだけたくさんの人を傷つけているのだろうと考えると、生きていくのが怖くなりました」 ゆっくり息を吸うと、憎しみのこもった目で私を見つめる千枝が浮かんだ。 彼女は今、幸せなんだろうか。 私がこちらの世界にいる間、彼女の頭の中からは私の存在は消えているはずで、 私がいない世界で、彼女は楽しく過ごせているのだろうか。
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