14人が本棚に入れています
本棚に追加
「この後用事があるから」という鈴木さんは、「お茶でも」と冷蔵庫を覗いた私に「こちらの生活はどうですか? 困ったことはないですか?」と尋ねた。
「はい、今のところは。学校も楽しいです」
「それはよかった。僕としてはせっかく来てもらったのだから『楽しい』と思ってもらえるほど嬉しいことはないですよ」
グラスにお茶と氷を入れて、リビングのテーブルに運ぶ。椅子に座った鈴木さんの前にグラスを差し出すと、鈴木さんは「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
「私、自分のことを”嫌な奴”だと思っていたんです」
一口お茶を飲んで、テーブルの上に置く。グラスの中で氷がぶつかり、涼やかな音を鳴らした。
「鈴木さんもご存知だと思いますが、私、元の世界で、親友の恋の邪魔をしました。自分にとって、親友の好きな人と関わることは、それほど大きな意味はなかったんです。でも、親友にとっては違った。それをわからずに、親友を傷つけてしまった自分がとても嫌でした。深い意味のない行動で傷つけてしまったからこそ、余計に自分が嫌だったんです。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、私の何気ない行動で、どれだけたくさんの人を傷つけているのだろうと考えると、生きていくのが怖くなりました」
ゆっくり息を吸うと、憎しみのこもった目で私を見つめる千枝が浮かんだ。
彼女は今、幸せなんだろうか。
私がこちらの世界にいる間、彼女の頭の中からは私の存在は消えているはずで、
私がいない世界で、彼女は楽しく過ごせているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!