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約束の日
結局、おばあちゃんの記憶は戻らないまま、三ヶ月後に亡くなった。
だけど最後の瞬間。
「ゆりちゃん、お歌本当に上手だったわね。いいお友達ができておばあちゃんも嬉しいわ。本当にありがとうね。大好きよ」
そう言って、いつもみたいに優しい微笑みを浮かべて息を引き取った。
その夜、私は夏美と一緒に泣いた。
それから、いつか言えなかった「夏美なら大丈夫。受験頑張って」の言葉をやっと伝えた。
***
今日は特別な日。
年に一度、子供たちが夜ふかしを許される夜。
楽屋で私は一枚の写真を眺めている。
私と夏美、おばあちゃんの三人が写った古ぼけた写真。
「百合! 準備いい!?」
「もちろん。夏美が初めて担当した舞台だもん」
「緊張してない? 大丈夫だよ、百合は大丈夫!」
「知ってる。夏美が教えてくれたから。私も初出場だし本気で歌うよ!」
今日は特別な日。
おばあちゃんとの約束の日。
きっとおばあちゃんにもこの歌が届くはず。
写真を着物の衿にそっと挟んで、私はこぶしを握ってステージへ向かった。
了
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