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感謝する日
文化祭は過去に例を見ないほどの大盛況だった。
娯楽が少ない田舎なのもあり、町中の人が押し寄せたのかと思うほどに人が溢れていた。
そして、その中には母と父に車椅子を押されるおばあちゃんの姿もあった。
あれからおばあちゃんは弱ってきていて、今日がきっと最後の外出になるだろう。
暑い夏の黄昏の中、体育館は隅から隅まで人で溢れている。
私は緊張で頭がどうかなりそうだったが、開幕の挨拶をしにいく前に夏美が私を抱きしめ、大丈夫、大丈夫と言ってくれたので心が決まった。
やがて幕が上がって華やかな吹奏楽部の演奏が始まり、夏美が司会者としてステージで挨拶をすると大歓声が上がった。
「本日はお越し頂きありがとうございます。司会の坂元 夏美です。それでは、第一回桜桃高校紅白歌合戦の開幕です!!」
白組第一組目はダンス部の男子たちによるK-POP。
電子音が響き照明が照らす中、息の合ったパフォーマンスで魅了していく。
紅組第一組目も同じくダンス部女子たちによるアイドルソング。
お揃いの衣裳と可愛らしい振り付けで、お客さんを楽しませてくれる。
その後も弾き語り、アカペラ、バンド、合唱部などの番が続いていき、そのたび会場は大興奮で、歓声と拍手で体育館は今にも爆発しそうだった。
胸がトクトクと高鳴っていく。
校長先生が呼び寄せた町のゆるキャラと夏美がステージで談笑をしている間、私は幕の裏で準備をしていた。
衣裳を直したりメイクを直したりは、あの時カラオケで私の歌を笑ったクラスメイトたちが一生懸命してくれた。
みんな真剣な顔で作業をしてくれて、それが終わるととびきりの笑顔で
「頑張ってね」
と言って手を握ってくれた。
そうか、あの時の私に足りなかったものはこれだったんだ。
自分の好きなものだけが全てだと思って、それ以外をつまらないものとみなしてしまっていた。
K-POPだってアイドルソングだって流行りの歌だって、どれもみんな好きな人がいる。
それをお互い尊重し合って楽しく過ごせればこんなに素敵な経験ができるんだ。
幕の向こうで夏美の声が聞こえる。
「それでは、いよいよ大トリ! 小石川 百合さんです!」
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