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ゆっくりと上がっていく幕。
瞑っていた目を開くと、眩しいスポットライトの向こうにおばあちゃんの姿を見つけた。
私は圧倒されながらも丁寧に頭を下げた。
ゆっくりゆっくり。息を整えて。
夏美が側にきて小声で「頑張って」と囁いたので、決意を込めて頷く。
オシャレが好きな女子が着物を作ってくれた。
化粧が派手な女子がメイクをしてくれた。
美容師を目指す男子が髪のセットをしてくれた。
吹奏楽部が曲をアレンジしてくれた。
演劇部が豪華なセットを作ってくれた。
他にも生徒みんなが盛り上げてくれた。
先生たちも忙しい中準備を手伝ってくれた。
校長先生は地元のテレビ局に掛け合って中継を頼んでくれた。
おかげで本家歌合戦に遜色ないほどの熱気が体育館に充満している。
何より、夏美が私のために頑張ってくれた。
受験勉強で忙しい筈なのに、おばあちゃんのことで沈んでいた私を励ますため。
だから私は本気で歌う。
力を込めて、心を込めて、気持ちを込めて願いを込めて。
私の中の全てを込めて、こぶしを握ってこぶしを利かせて。
拍手の波に飲み込まれそうになりながら、吹奏楽部とアイコンタクトを取る。
演奏が始まり、私は静かに息を吸って声を出した。
「夏の終わりの花火の様に
咲いて散りゆく運命なれど
夜空を彩る残影は
あなたと過ごした愛しい日々
聞いてください
『嗚呼夏景色』」
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