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今時演歌だなんて。
きっと誰もがそう思ってる。
だけど、私の大好きなおばあちゃんが大好きだったの。
古いラジカセにカセットテープを入れて嬉しそうに聴いていた。
そんなおばあちゃんの優しい顔が大好きだったの。
年に一度、夜ふかしが許された大晦日の夜に交わしたおばあちゃんとの約束。
どうしていつの間にか冷たい態度をとってしまったんだろう。
おばあちゃんはいつだって私に優しくしてくれたのに。
大好きなおばあちゃんのままだったのに。
私が変わってしまった。
思春期に入ったら家族と話すのが恥ずかしくなって、しわしわのおばあちゃんの手はいい知れぬ恐怖を感じることがあって。
そのまま優しさに甘えてしまった。
だけどきっといつか普通に話せる日が来るって。
きっといつか笑い合える日が来るって。
きっといつか、一緒に演歌を聴ける日が来るって。
不確かな未来に希望を託して、今を生きようとしなかった。
大好きなおばあちゃん。
大好き、大好き、大好き、大好き。
溢れかえる客席の中で、私はずっとおばあちゃんだけを見つめて歌った。
記憶が戻らなくたっていい。
今はただ大好きなおばあちゃんを喜ばせてあげたい。
曲が終わり、夏美が挨拶をした後に私に目配せをする。
額から汗が流れてくるのを拭って、息を切らしたまま私はゆっくりと頭を下げた。
そして伝えた。
カラオケボックスで言えなかった言葉を泪交じりで。
「みなさん、聴いてくださってありがとうございます」
私は再びマイクを口元に上げる。
「今日のこの日を準備してくださったクラスメイト、後輩、色々な部活のみんな、先生方、校長先生、テレビ局の方々、そして、大切な親友、大好きな親友、夏美。
みなさんのおかげで今日のこの日を迎えることができました。
大好きなおばあちゃんとの約束を果たすことができました。
一生忘れません。
本当にありがとうございます」
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