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冷えわたる日
「ねぇ百合、今日放課後カラオケ行こうよ!」
同級生の夏美はいつも私を誘ってくれる。
高校に入って初めての夏休み明けの放課後。
少なくなってきた蝉の声が響く教室で、私は静かに首を振った。
「えぇー? そうしたらまた今度行こうね! 約束だよ! 私、百合の歌聴きたいから!」
そう言いながら廊下へと消える夏美に、私は今度は笑顔で手を振った。
夏美と二人なら行っても良かったけど、周りの女子たちが嫌そうな顔をしているから。
原因が私にあるのはわかってる。
一学期の終業式の後、クラスの打ち上げでカラオケに行った時のせいだ。
***
わいわいがやがやと、耳が悪くなりそうな大音量。
打ち上げの主催者である夏美はクラス全員を参加させたかったらしく、私はこっそり帰ろうとしていたのに、うっかり見つかり強制連行されたのだ。
みんなが楽しそうに歌う中、特別親しい友達のいない私は一人で烏龍茶を飲みながら俯いていた。
流行りの歌なんて薄っぺらい。
古くてももっと素敵な曲が沢山あるのに。
そう思いながらストローで氷をかき回す。
そんな私を気にかけてくれたのか夏美は何かと話しかけてきた。
「飲み物足りてる?」
「ハニト超美味しいよ! 食べた?」
学級委員でクラスの人気者の夏美。
捻くれ者の私はその気遣いが却って鬱陶しく感じてしまう。
「ねぇ、小石川さんも歌おうよ! 何の曲入れる?」
いいと言っているのに、頑なにマイクを拒否する私に無理やりマイクを持たせるので、私はやけになって曲を入れた。
イントロが流れ始めると静かに息を吸って声を出す。
「きらりと光る泪の跡は
頬を濡らした最上川
果てない流れに漂う舟を
あなたの心に届けたい
聞いてください
『最上川心中』」
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