冷えわたる日

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 その場は急速冷凍されたかのように冷え切った。  クラスでも目立たない私が、いきなりこぶしを効かせた演歌を歌い始めたのだから当然だ。  しかも前口上までいれて。  ついさっきまで、女子達は振り付けを交えてアイドルソングを歌い、男子は流行りのシンガーソングライターの曲を好意を寄せている女子の方を見ながら歌い上げていたのに、誰もが口を開けて唖然としていた。  だって、 『あなたを殺して私も死ぬわ』  みたいな歌詞だし。  私が生まれる四十年以上前の曲だし。  だけど私は歌い続けた。  クラスメイトからの刺すような視線を感じながらも、ただただ心を込めて本気で歌った。  こぶしを効かせて握りしめて。  静まり返った観客に向けて、行き場を失った女の悲恋の歌を。  ジャジャジャジャーン!!  という音で曲が終わっても誰も反応してくれない。  あぁ、やっちゃったな。  まぁでも仕方ない。  そんな気持ちと共にマイクをテーブルに置いて、無言で荷物と共に部屋を出た瞬間に背後で爆笑の嵐が起こった。  防音扉で助かった。すぐに聞こえなくなったから。  目の前で笑わないだけ優しいのかもしれないが、それでもその笑い声は私を殺すのに十分だった。  後悔はないけど、それでも泪が溢れそうになる。  だけど、再びドアが開いたときには笑い声は静まり返っていたて、部屋から飛び出てきた夏美はとびきりの笑顔を私に向けてくれたのだ。 「小石川さん! 歌、すっごく上手だね!」
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