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理由のない日
それから私たちは仲良くなった。
相変わらず無愛想で人付き合いが苦手な私。
誰とでも分け隔てなく仲良くなれる明るい夏美。
まるで正反対の二人なのに仲良くなれたのは、ひとえに夏美のおかげだと思う。
夏休みの最後、夏美は私の家に泊まりにきた。
田舎特有の大きな家。
四月に東京から越してきた夏美にはもの珍しかったのか目を輝かせていて、鍵も開けずにガラガラと引き戸を開けたときには驚きを隠せないようだった。
軋む廊下に二人の足音と風鈴の涼しげな音が響く。
「あらぁ? いらっしゃい。ゆりちゃんのお友達? ゆっくりしていってねぇ」
居間を通りかかったところで祖母の声が聞こえた。
風に吹かれて揺れるか細い声。
昔はあんなに好きだったのに、いつの頃からかこの声を聞きたくなくなっていた。
自分でもその理由は分からないから嫌になる。
私が無視をして通り過ぎようとすると、夏美は姿勢を正して頭を下げ、ハキハキとした声で挨拶をした。
「お邪魔します。坂元 夏美です。四月にこっちに引っ越してきたばかりで、百合ちゃんとお友達になれて嬉しいです。よろしくお願いします」
社交辞令とも思えない、心からの笑顔で夏美はそう言った。
「夏美ちゃんねぇ。こちらこそよろしくねぇ。引っ越してきたばかりなの? ゆりちゃん、色々と教えてあげなさいねぇ」
襖越しに聞こえる祖母の声。
どんな表情をしているのか想像しながら、私はまだ話したりなさそうな夏美の腕を引っ張って無言で自分の部屋へと向かった。
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