百年越しの声

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とうとう気が狂ってしまったのかと思った。友人をまともに作らなかった影響で、心にもう一人の人格を形成した。そんな風に推測していた。けれど、それでも構わない。僕は投げやりだった。眼を瞑り、意識を声に集中すると、返事に成功した。それからは、同い年らしい鈴音との、不思議なやりとりが続いている。 『今日は、どんなお話をしてくれますか?』 『んー。恋愛とかどう? 昨日の夜に、恋愛の短編小説を読んだんだ』 『ぜひ!』 ごほ、と咳き込む声が聞こえた。苦しそうだ。鈴音の話では、自分は病弱で、外に出られる環境ではないそうだ。父が医者らしいが、治る見込みはない病気らしい。娯楽のない退屈な日々。待っているのは死だけ。僕ならそれこそ狂ってしまうだろう。だからこうやって、知り得た物語を話す。そんなことで喜ばれるとは思ってもみなかったから、嬉しかった。でも得意げになってはいけない。そう自分を戒める。これは僕の力ではないし、鈴音の体が良くなるわけでもないのだから。
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