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それは家と言うより、屋敷とか邸宅とか言った方が相応しい建物だった。
それでも、豪邸と言うほどではない。
と、鈴木は思う。
洋風の家ではあったが、サイズは日本の基準で作られている。
外開きの二枚扉の玄関ドアは、一枚の幅が約九十センチだ。土足でも似合いそうな堅い床板の玄関ホールだが、ドアの前には半円形のタイル張りのスペースがある。人はここで靴を脱ぎ、一段高い室内に入ることになる。
右側に木製のコートハンガーとベンチ。壁には二つのドア。左側に花瓶を載せたコンソール。壁にはドアが一つ。玄関の正面には一間幅の階段が踊り場に続き、そこから左右に半間の階段が続く。玄関ホールは三階まで吹き抜けになっていた。
部屋数は五つだ。
玄関ホールの左の壁のドア。この中は十畳の食堂になっている。
右側の壁の最初のドアはトイレ。中に入ると二畳の洗面所、その奥のドアを開けると二畳のスペースに洋式トイレが一つある。
次のドアは六畳の部屋で、談話室と言うには狭いが、用途としてはそんなものだろう。一人掛けの肘掛け椅子が四つ、それぞれの角に背を向けて配置され、中央には丸いコーヒーテーブルが置いてあった。
玄関正面の壁にもドアがある。
階段を挟んだ両側に一つずつだ。
どちらから入っても、横に長い十五畳のキッチンに続くドアだった。ただ、流しやコンロのあるキッチンカウンターが、左奥の壁に二間半の長さで取り付けてあり、風呂場が右側にあるので、どちらに用があるかで使うドアが分かれるというだけだ。
風呂場は三畳の脱衣室と三畳の洗い場に分かれている。脱衣室には洗濯機がある。バスタブは洗い場全体のほぼ半分を占めていて、楕円形だ。大人二人でも入れる大きさだった。
キッチンからはもちろん食堂に行けるが、ドアは二つある。その二つのドアの間の壁に食器棚があり、この裏側の食堂の方にはマントルピースがある。
と言っても、暖炉がある訳ではない。暖炉のように見せかけてはあるが、中に収まっているのは石油ストーブだった。
正面階段を昇りきると半間幅の細い踊り場で、左右に一つずつある五段の短い階段の幅も同じ半間。左に昇ると十畳の寝室のドアがある。廊下からは玄関ホールが見下ろせるように、壁ではなく手摺りが取り付けられていた。
寝室を通り過ぎると三階に行く階段で、階段もそれに続く手摺りなのでホールが見下ろせる。階段は突き当たりで右に曲がり、半畳のスペースを置いてドアがある。そこは十一・五畳の部屋で、ここは衣裳部屋だった。
細い踊り場の右の階段を上ると、そこは壁で仕切られた部屋にはなっていない。一階のトイレと談話室の真上にあたる場所だが、ロビーのようにただ広いスペースがあるだけだった。もちろん、玄関ホールを見下ろす形で手すりが取り付けてある。
階段はやはり半畳のスペースを置いて三階に続いている。こちらも突き当たりで右に曲がり、半畳開けてドアがある。中は書斎だ。八畳で、本棚と机と椅子が二つあるだけだ。
一階に二部屋。二階に一部屋。三階に二部屋。合計五部屋だ。
キッチンにダイニングの要素はなかったが、広さから見てDKと言っていいだろう。広告に載せるとしたら5DK。もしくは5DK+L(ロビー)か、5DK+L(ロフト)とでも言うのだろうか。ちなみに、玄関ホールは正面階段も含めると十五畳だ。階段の下には小さなドアがついていて、中は収納スペースになっている。とすると、5DK+L+Sか。
鈴木は書斎の机の引き出しを開け、中を見た。幾つかの書類と茶封筒が二枚、レターセット、筆記用具などが入っている。茶封筒の中を見ると、現金が入っていた。二つともに三十万が入っていた。
その中から幾らを抜き取ろうかと思った時だ。
書斎のドアが急に開いて、男が入ってきた。階段を昇る音やその他の物音も聞こえなかった。ただいきなり男が現れ、その姿を正確に目にとめる間も、声を出す間もなく鈴木は殴られた。
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