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このような状況の中で、とセドリックは首を傾げた。
「おまえの役目は何だったかな?」
「クレマン四世一家を死なせないことでございます」
「そう。私の役目もそうだよ。エドゥアルド様がこの土地を治めるための駒として使うまで、死なれては困るんだ。国王も王太子も」
頷く。
セドリックの笑みが深くなる。
「それで、おまえを強運な同士と呼べるようになるわけだ」
どういうことだ、と目で問うと、セドリックはますます笑った。
「ジスラン王子と踊っただろう」
「……ご覧になっていたのですか」
「勿論」
文官は生真面目に、眼鏡を押し上げた。
「第二王子は気まぐれだ。気に入った娘がいるとすぐに手を出そうとする。婚約があるというのにね」
つまり、とアニエスが眉を寄せると、セドリックは低く喉を鳴らした。
「第二王子に近づくのは簡単だということだ」
そして、策を打て、と言う。
「そこから王妃に近づいていく道ができるだろうな。そうしたら国王へ、そして王太子へと繋がれる」
ふう、とセドリックは大きく息を吐いて。微笑んだ。
「死なせるな。ジスラン王子は勿論、クレマン王も、ジェラルディーヌ王妃も、フィリベール王太子も、全員だ」
生き残らせてどうするのだろう、とアニエスは尋ねてしまったことがある。
すると、セドリックは穏やかな笑顔で告げた。
彼らはその首から流れる血で以て、王家の終焉を告げなければいけないのだ、と。
「エドゥアルド様のお望みを忘れるな」
「はい」
セドリックの向こうにエドゥアルド王の蔭を見て。そっと目を伏せた。
そのアニエスの耳にセドリックが囁く。
「我らが真実の王に仕えよ」
合言葉は、会話は終わりとの合図。
セドリックはこの国の文官の顔をして去って行った。
アニエスもまた、古いドレスの裾を翻して歩き出す。
誰が王であっても自分には関係のないこと、と思いながら。
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