03.我らが真実の王に仕えよ

4/4
前へ
/136ページ
次へ
 このような状況の中で、とセドリックは首を傾げた。 「おまえの役目は何だったかな?」 「クレマン四世一家を死なせないことでございます」 「そう。私の役目もそうだよ。エドゥアルド様がこの土地を治めるための駒として使うまで、死なれては困るんだ。国王も王太子も」  頷く。  セドリックの笑みが深くなる。 「それで、おまえを強運な同士と呼べるようになるわけだ」  どういうことだ、と目で問うと、セドリックはますます笑った。 「ジスラン王子と踊っただろう」 「……ご覧になっていたのですか」 「勿論」  文官は生真面目に、眼鏡を押し上げた。 「第二王子は気まぐれだ。気に入った娘がいるとすぐに手を出そうとする。婚約があるというのにね」  つまり、とアニエスが眉を寄せると、セドリックは低く喉を鳴らした。 「第二王子に近づくのは簡単だということだ」  そして、策を打て、と言う。 「そこから王妃に近づいていく道ができるだろうな。そうしたら国王へ、そして王太子へと繋がれる」  ふう、とセドリックは大きく息を吐いて。微笑んだ。 「死なせるな。ジスラン王子は勿論、クレマン王も、ジェラルディーヌ王妃も、フィリベール王太子も、全員だ」  生き残らせてどうするのだろう、とアニエスは尋ねてしまったことがある。  すると、セドリックは穏やかな笑顔で告げた。  彼らはその首から流れる血で以て、王家の終焉を告げなければいけないのだ、と。 「エドゥアルド様のお望みを忘れるな」 「はい」  セドリックの向こうにエドゥアルド王の蔭を見て。そっと目を伏せた。  そのアニエスの耳にセドリックが囁く。 「我らが真実の王に仕えよ」  合言葉は、会話は終わりとの合図。  セドリックはこの国の文官の顔をして去って行った。  アニエスもまた、古いドレスの裾を翻して歩き出す。  誰が王であっても自分には関係のないこと、と思いながら。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加