03.我らが真実の王に仕えよ

3/4
前へ
/136ページ
次へ
 だが、事を進めるのは簡単ではない。  ベルテールが豊かな国故に、狙っているのはエドゥアルドだけでないのだ。  広がる肥沃な農地。北の山脈に繋がる鉱山。西の大海へこぎ出せる港。どちらを向いても魅力的だから、南に面するイリュリア国も狙っている。  現状、一歩先んじているのはイリュリアだろう。王女と王子を婚姻させることで、国の中へ踏み込もうとしている。  だが、いくら平和()けした国とは言え、ベルテールの人間がそれを容易に認めることはないだろう。だから、婚約したのは王太子ではなく第二王子なのだ、とハルシュタットの重鎮たちは言っていた。  その上で問題になるのが、ベルテール王国で国王を凌ぐ権勢を誇る宰相だ。  この、ミュランという男が曲者だ。  国王クレマン四世の最初の妃が亡くなると、喪が明けるなり自分の娘を次の妃にと送り込んだ。  それで生まれた王子がイリュリアの王女と婚約したジスラン。実の孫を王位に就けて、自らが権勢を振るいたい宰相は、この婚姻をジスラン王子が王位を継承する理由にしようとしている。  そうなると邪魔なのは、王太子であり、ジスランの腹違いの兄であるフィリベールだ。  先の王妃――フィリベールの母はとうに身罷っている。だが、本来であれば、彼女の実家が後ろ盾となってくれるはずで、誰もがそのつもりだった。王妃の死後ほどなくして立った年若い当主を巡って内紛を起こしたりしなければ、東の重鎮ブランドブール辺境伯の一族はフィリベールを支えていたはずだ。だが、今はそれができていない。  無防備な王太子を、ミュラン宰相もイリュリアも、亡き者にしようとしている。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加