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手紙の女の子は積極的な性格のようで、すぐに会いたい、デートしてくださいと猛アプローチをかけてきた。
基樹の背中を押す時間が欲しくて、今日の夕方まで彼女には待ってもらうことにした。
やがて病室に戻ってきた基樹は青い顔をしていた。
なんて声かけしたらいいか分からないようだったから、私の方から話し始めた。
「ごめん、基樹。これ、見ちゃった」
布団の下からピンクの封筒を取り出すと、基樹は驚いた表情を浮かべてそれを取り返した。
「その人と、付き合うといいよ」
「梓、やめて」
「もう付き合うってメールで返事しちゃった」
「どうしてそんな勝手なこと──」
基樹は怒りそうになったけど、すぐに下を向いて痛みに堪えるような顔をした。
「今夜は9月ペルセウス座ε流星群がやってくるんだよ。いつもより流れ星がたくさん出るの。ロマンティックだから、彼女と見に行ってみてよ」
「……何を言ってるんだよ」
基樹は肉が痩せて骨張っている私の手を、柔らかい手で握った。
「僕は梓と最後まで一緒にいるから。希望を捨てないで」
無理だよ、と頭で思いながら、私は微笑んだ。
「ありがとう」
今までのこと。
さよならはどうしても口にできなかった。
その日の夕方、窓の外に流れ星が落ちた。
無理を言って新しい病室に既に移っていた私の傍らに、彼はもういない。
手紙の女の子とデートしてきてほしいと言っておいたけど、実行したのかどうか、私にはもう永遠に分からない。
ひとりきりで、私は流れ星にお願いする。
私のことを、基樹が忘れますように。
基樹が幸せになりますように。
やがて、一際大きな流れ星が火球となって空を燃やしながら降りてきた。
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