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☆
橘さんの気持ちを変えたものは何なのか確かめるために、私はもう一度今日をやり直した。
これでもう最後にしたい。
朝、電車の中で彼にラブレターを渡し、尾行の邪魔をしようとする二階堂を説得して、一緒に尾行してもらうことにした。
今は橘さんの高校の最寄駅の中だ。
遅刻は決定。いや、もう今日は学校に行くどころじゃない。今日の授業は散々受けたし、もう頭に入っているから行かなくていいと思う。
「いいのか、本当に。こんなことバレたら振られるんじゃね?」
「尾行するしかないって言ったのは二階堂でしょ」
「そんなの覚えてねーよ」
駅の雑音に紛れて、二階堂のため息が聞こえた。
「橘さん、橘さんって。星野の選択肢にはあいつしかないのかよ」
「だってずっと憧れてたんだもん」
「ただの憧れでよくそこまで行動できるな」
「じゃあ二階堂にもし好きな人がいて、その人が死んじゃう運命を知ったら何も行動せずにいられるの?」
二階堂は私の顔をチラッと見た。
「……いられないな」
「でしょ?」
私は駅から学校へ向かう橘さんの背中を見つめた。
「だけど……好きだから助けたいっていうより、どうして橘さんが死んじゃうのか、その理由が知りたいっていう方が強いかも。私は多分、怒ってるの」
「怒ってる?」
「そうだよ。何回積み上げても最後に崩される積み木をやらされているみたい。こっちは必死に守ろうとしているのに、何度も絶望させられて、いい加減にしてって思っちゃう。もう、意地になってるんだよね」
「そうか」
橘さんは私たちに気づかないまま高校に入って行った。
「学校の中で何か心境の変化があった時はどうする?」
「それは、もうメールで何かありましたかって聞くしかないかな」
「ちゃんと答えてくれるかな」
「分かんないけど、ダメでもともとだよ」
ずっと校門の前にいるのも不審がられるから、私たちは美浜高校と目と鼻の先にある美浜大学附属病院の敷地内に潜り込み、高校の門が見える位置で張り込みを続けた。
長い持久戦に入った。一時間、二時間と過ぎてくると、付き合わせてしまっている二階堂に申し訳ないという気持ちが膨らむ。
それに対して二階堂は「乗りかかった船だから」と文句も言わなかった。
何度今日をやり直しても、その度に二階堂は私を助けてくれる。
彼がこんなにいい人だったなんて知らなかった。私の目は節穴だったんだろうか。
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