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私は泣きながら病院を飛び出し、そのままあてもなく走った。
モヤモヤとした思いは、必死に体を動かすことで天に昇る。
走って、走って、涙を流す。
苦しい呼吸や、上がる体温や、弾む鼓動で生きていることを実感する。
私は生きている。
心臓が破れそうなくらい走っても、こんなにもまだ元気に生きている。
「はあ、はあ……」
「おい、待てってば」
気がつくと、後ろから二階堂がついてきていた。
付かず離れずの距離で私を追いかけてくれていた。
名前も知らない川沿いの堤防を、二人で走っていた。
私は一人じゃなかった。
そのことに気づいて、わがままだった足が止まる。一生分の息継ぎをした後で、私はやっと振り向いた。
「ごめん、二階堂」
「いいけど……いや、良くないか」
ああもう! と二階堂はイライラしたように叫んだ。
そして、頭が空っぽの私の肩を掴んで正面から私を見下ろした。
「今から俺、お前に酷いこと言うからな! 聞くのが嫌なら耳でも塞いどけ! そんで、願い事叶える時に俺の言ったこと忘れるように願っとけ!」
私は驚いて、二階堂を見上げた。
「分かったか?」
「うん」
彼は深呼吸をしてから一気に捲し立てた。
「瀕死の女なんかにお前が敵うわけないだろ! あいつにお前の気持ちは永遠に届かない。届くわけなんかない。あいつを救おうとしてお前のやったことは全部無駄だったんだよ。だからもう放っとけ! お前が何度も救ってるのに気づかずに、別の女と心中しようと考える奴のことなんて、お前が気にしてやる意味もない!」
二階堂は私の頬を濡らしている涙を悔しそうに拭った。
「……こんな涙も流すなよ、もったいない。お前はもう充分、良くやった。俺が全部見届けた。だからもう、いいだろ」
私の想いは、二階堂に見届けられた。
その言葉に救われたような気がして。
声を上げて泣いた。
「二階堂」
私はゆっくりと彼の胸に頭を預けた。
「ごめん。今だけ、ここ貸して」
「……今だけな」
二階堂はあたたかい手で私の頭を抱いた。
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