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プロローグ
それは、すごく素敵な夜だった。
群青に透き通っている空に散りばめられた螺鈿の星々は、まるで深海に沈んだ本物の貝殻のようだった。
あるいは、純白のウエディングドレスに煌めく宝石のような光。
あるいは、チョコレートケーキの上に篩いかけられた粉雪のパウダー。
とにかく、比喩の下手くそな私がどうしても讃えたくなる美しさで眼前に広がっていた。
「これを君に見せたかったんだ」
私の隣には、橘基樹さんが居た。
初めてできた彼氏がこんなにロマンティックな人で良かった。
彼は知的なメガネをかけたサラサラヘアの素敵な人で、超エリート男子校と呼ばれている美浜高校に通う3年生。ひとつ年上の18歳だ。
今朝、私は勇気を出して彼に手紙を渡して告白した。
すると、驚くべきことにOKの返事をもらうことができた。
ハイスペックな上、ロマンティックだなんて、私にはもったいなさすぎるほど完璧な彼氏だ。
彼と付き合えるなんて、幸せすぎて怖いくらい。
「もう暗くなっているのに、急に呼び出してごめんね」
「いいえ、嬉しいです! 初めてのデートがこんな素敵な所で」
彼に呼び出された私は、今から10分前にここ美浜運動公園に到着した。
時刻は7時30分。
母にはすぐそこのコンビニに行ってくると嘘をついて家を抜け出してきた。
早く帰らないとちょっとヤバい。
でも、彼に会いたいと言われたのだから仕方ない。怒られるのは覚悟しておこう。
緩みっぱなしの頬を感じながら、私はゆっくりと空を眺めた。
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