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「見ましたか、今の?」
通りを挟んで反対側。
怪しげな黒いローブを纏った老婆に、黄色いシャツの少年が話しかけている。
「ああ、もちろん。あんたに見えるんだから、あたしにも見えて当然だろ?」
二人の前には、小さなテーブルが一つと、パイプ椅子が二つ。
彼女は路上で占い師をしているのだが、それは表向きの商売であり、実際には霊能力者としての稼ぎの方が多かった。
少年にも多少の霊感があり、最近頻繁に彼女の占い屋に来ている。ただし客ではないので、いわば弟子のようなものだろう。
「あれはね、いつもの恒例行事だよ。あの男は……」
あまり優しい口調ではないけれど、弟子の少年に対して、彼女は自分が知る限りの真実を教える。
「……あそこで、飛び降り自殺に巻き込まれて死んだのさ。よほど悔しかったんだろうねえ。成仏できず地縛霊になって、ああやって最期の瞬間を何度も再現してる。しかも『死んでる』って自覚もないままにね」
(「ビルの上から女の人が落ちてきた」完)
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