これも1つの恋物語でした。

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 私が主人公になれないことなんて、  私が一番よく知っている  可愛くて優しいあなたが主人公  私はただのモブ、その他大勢の1人だけど  モブだって恋をしたっていいじゃないか  王子さまにはお姫さまがいて  お姫さまは幸せにならなくちゃいけないから  モブは2人に祝福をあげて喜ぶだけ  どうしたって適わない、適うはずがない  邪魔なんてしちゃいけない存在なんだ  初めはただのクラスメイト  会話もあまりしたことなかったのに  誰からも気付かれず、落ち込んでいた私に  君は気付き、手を差し伸べてくれた  暗闇の中を落ちていく私に君は微笑み、  私を笑顔に戻してくれた  言葉を交わしていく内に触れる君の心と優しさ  君にとっては当たり前で普通な対応だったのに  そんなことで恋に落ちる私はなんてつまらない女  君の優しさは平等で日常的な風景の一部  自分でも分かってるけど、  止められない気持ちだってある  授業中に君と目が合った回数をノートの端に書いて、  君と会話をした日にはカレンダーに丸をした  今も、昔も、恋する乙女は同じことをする  胸の高鳴り、頬の火照り、愛する人の笑顔に一挙一動  世界が色鮮やかで、落ち込んでもすぐに立ち直れて、  君の隣に立っていられることが嬉しくて、  声を掛け続けていたけど……  いつからだろう、  君の視線の先にいる彼女のことに気づいたのは  頬を染める君は私と同じで、  瞳の潤みも同じだったこと  失恋は突然で、世界がひっくり返った  色褪せた世界でも、  君のことだけは色鮮やかに見えたよ  ちぐはぐだらけの世界で  胸が痛くて苦しく締め付けられたけど、  切なく悲しそうな君の横顔を見て心が騒ぐ  声は出ないけど私は君の背中を押した ”お姫さまのところへ行って”  駆け出す君、小さくなる背中を見て私は涙を流す  一人落ち込んでも、もう誰も助けてくれない  物語のラストはハッピーエンドがお約束  誰も結末を変えることはできない  私の王子さまは私の王子さまじゃなかっただけ  君は王子、  私は群衆の一部のモブ、  お姫さまは”あなた”だった  王子さまの手を取り、お姫さまは幸せに笑う  誰もが求めるハッピーエンド  悲しみも苦しみも何一つない大団円  拍手喝采、涙も喜びに溢れていて二人の幸せを願う    私も涙を流す、流し続ける  これはお伽噺、お噺だから  幸せ満載、誰も気付くことない  ページを閉じて、終わりにしよう  ちっぽけでくだらないお伽噺を……  最後に1つ、1つだけ言わせて下さい  誰にも知られず終わってしまったけれど、  これも1つの恋物語でした。
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