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どうして、どうして勢いで乗車してしまったのか。
「ほーんと茉優ちゃんってさ、無自覚で煽ってくるよねえ」
「ちが、やめ……っ」
激しい後悔と嫌悪に、涙が目尻に浮かんできたその時。
「んなーーー!」
ビタン、と鈍い音に重なる、特徴的な声。
動きを止めた片原さんと、示し合わせたようしにしてフロントガラスを見遣る。と、
「ね、猫……?」
びたんと張り付いた、ふさふさのお腹。
それも一匹だけじゃない。背を向けて腰を下ろした子や、尻尾を立ててボンネットを闊歩している子。今まさに飛び乗ってきた子に、この車に向かって歩いてきている子が更に数匹……。
「な、なんで猫がこんなに寄ってきてんだよ!?」
にゃーにゃーと大合唱の猫たちに、片原さんが慌てて私から退いた。
急いで運転席側の扉を開け、外に出ていく。
(今なら逃げられるかも)
鞄を抱きしめ腰を浮かせた、刹那。
「俺の嫁に、なにをしてんだ?」
開かれた扉から入り込んできた、凛と澄んだ声。
空間の反響を纏わせてもなお通ったそれは、どこか、聞き覚えのある。
コツコツと鳴るのは彼の靴音だろう。
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