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「だ、誰だお前……!」
取り乱したように声を荒げる片原さんの、視線の先を追う。
薄暗い影の中、堂々たる足取りで現れたのは、ゆったりとしたシャツに細身のジーンズをまとった男性。
彼は動揺する片原さんにも臆することなく車へと歩を進めてくると、車に乗る猫をちょいと撫でた。
(そんな、まさか。そんなはずは)
予感に、心臓がばくりばくりと強く跳ねる。
なおも猫にねだられた彼が俯いた拍子に、柔らかそうな白い髪がふわりと揺れた。
「俺か? 俺は彼女の旦那だ」
「だ、旦那!? はっ、んな嘘に騙されるわけ――」
「嘘ではないさ。なあ?」
顔があげられる。
かち合ったのは、薄暗さに負けない美しい赤い瞳。
(やっぱり、夢の――)
固まる私に彼はとろりと瞳を緩めると、つかつかと片原さんを通り過ぎて、運転席の扉を開ける。
「遅くなって悪かったな、怖かったろ。もう心配ないからな」
差し出された掌と、労わるような優しい声。
心配げな微笑がちりりと胸をたきつけるのを感じながら、私も手を伸ばし、重ねた。
嬉し気にいっそう笑みを深めた彼が、強すぎない力で私を引き上げる。
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