猫又様と離れで同居です

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「いいえ。奥様がいてくださったからこそ、私はこんなにもありがたい生活をさせていただいているんです。お話を聞けるのは嬉しいです。それに、この家もきっと、懐かしんでいると思います」  いなくなってしまった人を懐かしむのは、その人が生きていた証を確認する行為だと思う。  確かに同じ時にいたのだと。思い起こして、言葉にして。  時と共に曖昧になりつつある輪郭を、少しでも明瞭にしたくて。 「……こうして懐かしむことが出来るのも、茉優様のおかげにございます」 「え?」 「茉優様がこうしてお住みくださると決め、この家に再び息吹を吹き込んでくださったからこそ、あの時に触れることが出来るのです。あやかしといえど、臆病なものでございますね。寂れていく姿に、あの時を重ねたくはなかったのですよ。温かな記憶を、寂しいものに変えてしまいたくはないものですから」 「タキさん……」 「私のような想いをしている者は、他にも多いはずです。そして勿論のこと、これは茉優様だったからこそ、私どもも懐かしめるのでございますよ。"人間の女性"だからというだけではございません」 「私だったから……ですか?」
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