前世の記憶がないので嫁にはなりません

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 離れた視線に、ほっと息を吐きだしのもつかの間。  彼はなにやらぶつぶつと、 「そうか、その可能性もあったのか。俺はてっきり……いや、考え無しだったのは俺のほうか。まあ、これはこれで……」  くっと頬を引締めて、彼が真剣な顔で尋ねてくる。 「何も、覚えていないのか? 俺のことも自分のことも……約束、も」  ねね、と。彼が発した名に、思わず肩が跳ねる。  その反応がどう映ったのか、「ねね?」といぶかしむ彼に、私はぎゅうと鞄を抱く腕に力を込め、 「あなたのことは……夢の中で、見たことがあります。"ねね"というお名前も、その夢のなかで。どうして、私の夢に知らないはずのあなたが何度も現れたのかは、わかりません。ですが"ねね"さんを探されているのなら、私ではありません」 「……そう、か」  彼はふうーっと長い息を吐きだして、しばらくの沈黙。  これが落胆なのか、怒りなのか。判断がつないけれど、傷つけてしまったことに変わりはない。  もっと早く言うべきだった。後悔に痛む胸を無意志におさえながら、「あ、あの」と謝罪しようとした刹那、 「人違いではないさ」 「…………え?」
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