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「すみません。お帰りの時間、聞くの忘れてしまいました」
「いやあれは誰がどーみても茉優のせいじゃないからな」
まだ怒りが収まらないのか、マオが早口で気遣ってくれた、その時。
「僕が教えましょうか?」
部屋から届いた男性の声に、思わずマオと顔を見合わせる。
まだ人がいたらしい。
(でも、あれ? たしか事前の資料だと、里香さんは一人暮らしだったような……)
となると、里香さんの恋人かもしれない。先ほど彼の前で着替えていたわけだし。
私は「すみません、失礼します」と、半開きだった扉を開けて入室する。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。私共は里香さんのご依頼で参りました、つづみ商店の家政婦派遣サービスの者でし……て」
名刺を差し出す手が、うっかり止まる。
壁に寄せられたシングルベッドの上に、腰かける男性。
前髪にかかる黒い髪に黒い瞳と、色に奇抜さはないのに、思わず目が吸い寄せられるような色気のある人だ。
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