前世の記憶がないので嫁にはなりません

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 今私の隣にいる、落ち着き払った彼とはうまく繋がらないけれど、確かに声はマオのもの。 (あれはもしかして、前世の記憶……?)  確かめるようにして右の小指を立てると、 「! 思い出したのか?」 「いえ、違くて……夢の中で、マオさんが言っていたんです。"契り"を結んだこの小指が、必ず巡り合わせてくれるって」 「……よりによって、残っていたのが"その時"なのか」 「マオさん?」  彼は「ああ、いや」と気まずそうに頬を掻き、 「おそらくそれは茉優が……とういうか、"ねね"が息を引き取った時の記憶だろう。声ってのは最後まで聞こえているなんて言うが、なにもそんな……情けないところを残されているとはなあ。残るのならもっとかっこいい場面が良かったんだが、神ってのは意地が悪いな」 「すみません……」 「茉優が謝ることなど一つもないだろう。それに、"かっこいい俺"を知ってもらう時間は、これからたっぷりあるしな。……約束を交わしたのだと、それを覚えてくれていただけでも、心底嬉しい」  向けられた愛おし気な眼差しに、ぐっと胸の奥が締まる。  なんだろう、この感覚は。
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