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蓋を閉められた缶の隣には、分離した赤いネイルの小瓶。
里香さんは手と顔を洗うと、ベッドに腰かけた。
「里香さん」
意を決して名を呼んだ私に、里香さんが億劫そうにして「なに」と視線だけを投げる。
(あれ?)
里香さんの左足の指先に、赤い色。一瞬、怪我かと思ったけれど、どうやらネイルのようだ。
全ての指ではなく、左の薬指にだけ塗られている。
(この色、あのネイルと同じ色……?)
けれどもあの中身は分離していて、とても塗れる状態ではなかった。
となると別のボトルがあるはずだけれど、ならばどうして"使えない"あの一本だけがチェストの上に置かれて――。
「ねえ、ちょっと」
「あ、すみません」
はっと思考を切った私は、慌てて話を戻す。
「踏み入った話になるのは承知の上ですが、このままではやっぱり心配で……。ストーカーは、元彼さんですか」
里香さんははあ、とため息をこぼして、
「恋人じゃない」
「……へ?」
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