女郎蜘蛛と赤い爪のおまじない

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「…………」  おねがい、と。里香さんは震える声で呟く、 「あいりをアタシの糸から逃がしてあげて。花もネイルも、この家だって。全て捨てて隠れてしまえばいいってわかっているのに、アタシには、出来なかった。逃がしたくないって、アタシの"蜘蛛"が拒絶するんだ。あれを飼ったのだって、あいりに諦めてもらうためだって言いながら、もしかしたらもっと気にかけてくれるようになるんじゃないかって期待してた。あいりが花を入れ始めて、うれしいって、思ったんだ」  里香さんは目尻を掌で拭う。 「アンタ達を呼んだのだって、あいりがいなくてもアタシは大丈夫だって、見限ってもらうためだったのに。もしかしたら、花以上のことをしてくれるんじゃないかって。……会いに来てくれるんじゃないかって、どこかで待ってたんだ。逃してあげたいのに、逃してあげられない。こんな、こんなあやかしの血が憎くてたまらない……!」  叫ぶようにして涙を流す里香さんの背を撫でる。  逃がしてあげたいのに、逃がしてあげられない。その言葉に、私の心も罪悪感に軋む。
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