女郎蜘蛛と赤い爪のおまじない

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「……なんでアンタと」 「逃がしてあげたいのに、逃がしてあげられない同士ですから。呼んでくだされば、いつだって来ます」  里香さんが濡れた瞳を緩めて、薄く微笑む。と、 「いくら大切だろうと、幸せであってほしいと願おうと、人はある時とつぜんに死ぬぞ」 「マオさん……?」  彼は冷たい表情のまま、里香さんを見つめ、 「その"ある時"は、それこそ今この瞬間かもしれない。その時お前は、後悔しないか? こんなことならもっと早く、もっと時間の許すまま、一緒にいれば良かったと」 「それは……」 「幸せになれるのかどうかなんて、自分の行動次第でいくらでも変えられるんじゃないか? けどな、死だけは絶対に、誰にも変えられない。本当に辿り着くかどうかもわからない未来を怖がって、離れている間に失うくらいなら、俺は"今"を有効に使う。この手を取ってくれるように。俺を選んでくれたのなら、絶対に幸せにするために。その覚悟に、あやかしの血なんて関係ないと思うがな」 「……そうだ、ね。アタシはこの血を言い訳にして、覚悟を決めることから、逃げてたのかも」
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