女郎蜘蛛と赤い爪のおまじない

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「……ありがとう。キミもね」  扉が閉まる。階段を降りた私たちは、なんとなしに足を止め里香さんの部屋を見上げた。  これからひとつずつ、拗れた糸を解いていくのだろう。そして、今度は二人で結びなおす。  もう二度と、互いが離れてしまわないように。 「せっかく教えていただいたのに、ビールの裏わざ、必要なくなっていまいましたね」  口を開いたのは玄影さんで、私が目を向けると彼は微笑み、 「飲み切れないビールは、元々、彼女が飲んでくれていたそうです」 「……そうだったんですね」  なるほど、だから。  里香さんはあのビールを残しては、捨てられないままシンクに置いていたのだろう。 「本来、掃除の道具ではなく飲み物ですから。美味しく飲んでしまえるのなら、それが一番に決まってます」 「ふふ、お優しいんですね。そんなお優しい茉優さんに、折り入ってお願いしたいことがあるのですが」 「なんでしょう?」 「僕のご主人様になってくれませんか?」 「へ!? 私ですか!?」 「なっ! 駄目だ駄目だ!」  両手を広げたマオが、私と玄影さんの間に割り入る。
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