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「……相談、出来るといいのだけど」
そもそも夕食云々の前に、彼が離れを出ていってしまえば、それまでだ。
夕食の献立の前に、打ち明けなければ。私は"ねね"ではないのだと。
本音をいうのなら、もう暫く黙っていようと思っていた。
可能なら、マオ自身が気付くまで。
けれどもあんな、心を裂くようなマオの"覚悟"を聞いてしまったら。
これ以上、狡いままじゃいられない。
(マオは、後悔してるんだ)
もっと"ねね"と一緒にいたかったと。二人で手を取り合って、幸せな時を続けたかったと。
あやかしとして百年以上を生きてまで、探し続けていた愛しい人。
もう見なくなってしまった、けれども脳裏に焼き付いたあの夢が、嫌というほど教えてくれる。
彼は次の生を誓うまでに、"ねね"を愛していたのだと。
だけど私は"ねね"じゃない。
マオが必死に求め続けた、愛しい人じゃない。
「……くるし」
重く濁っていく胸に触れる。
(わかってたはずなのに、馬鹿だなあ)
手放したくない。私を見つめる愛おし気な瞳も、安らげる大きな手も。
自分がこんなに欲深いのだと、初めて知った。
知ってしまったからには、手放してあげないと。
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