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「"ねね"になれたら、よかったのに」
馬鹿らしい、叶わない夢。だってそもそもが違うのだから。
彼が私に全てを与えてくれるのは、私を通して"ねね"を見ていたから。
幻想は、いつか崩れる。
「……人は、ある時とつぜんに死ぬ」
帰ってこれなかった、お父さんとお母さんのように。
元気だと思っていた、お祖母ちゃんのように。
そして彼が愛してやまなかった、"ねね"のように。
私だって例外じゃない。だから言わなければ。
彼の優しさに甘えたまま死んでしまったなら、マオは、幻想の愛に縛られ続けてしまう。
***
マオが離れに戻ってきたのは、十六時を過ぎたころだった。
「茉優、いいモン持ってきたぞ。ちょっと遅くなっちまったが、お茶にしないか?」
にっと笑うマオの手には、縦長の茶色い小箱。白い満月状の穴には、向き合う大小二匹のリスが描かれている。
ご機嫌なマオと紅茶を淹れて、縁側のテーブルセットへ。
それぞれ椅子に腰を落とすと、さっそくとマオが小箱を開けた。
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