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目の奥に湧き上がってくる熱を知られたくなくて、顔を伏せ奥歯を噛みしめる。
マオはなにも言わない。沈黙の中に、鳥の声だけが遠くに聞こえる。
それでいい。どうか、このまま逃げてほしい。
叶うなら微塵の優しさなど残さず、私を憎んで、恨んでほしい。
これまで捧げてくれた優しさは全て、心の奥底に愛しい思い出として眠らせておくから。
「……ああ、そうだな」
「!」
肯定する声に、思わず肩が跳ねる。と、
「茉優は"ねね"じゃない。だが、俺だって、前世のままの"マオ"じゃない」
「……え?」
優しい声色に誘われるようにして顔を上げる。
と、マオは優しい笑みを浮かべていた。
(どうして、そんな顔を――)
「茉優、先にひとつ確認しておきたいんだが」
「は、はい」
「茉優の"逃がしてあげたいのに、逃がしてあげられない"相手って、もしかして俺のことか?」
「! は……はい。その、"ねね"の魂を持っているからって、マオさんの想い人ではないのに、ずっと黙って甘えてしまっていたので……。本当に、申し訳なく」
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