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「茉優がねねではないように、俺だって、ねねの愛してくれた"マオ"じゃない。記憶はあるが、それはしょせん記憶であって"俺"の話ではない。茉優になら、わかるだろ?」
「なら……それなら、どうして……っ」
「はじめはおそらく衝動だな。前世の記憶が幼い"俺"と同化して、あたかも自分の体験のように感じていたんだ。だが年月を重ねるにつれて、俺もやっとこさ気が付いたんだ。俺は、あの"マオ"じゃないってな」
マオは昔を懐かしむようにして、窓の外を見遣る。
「時代も違けりゃ立場も違う。ましてや俺は人間ではなく、あやかしだ。途端に今度は、怖くなってきてな。会いたいというより、会わなければになっていた"ねね"と再会した時、あまりの違いに、拒絶されるんじゃないかって。なぜなら俺はマオだが"マオ"じゃない。"ねね"の愛したマオには、俺はなってやれなかったからな」
だから、とマオは私に瞳を向けて言う。
「茉優に"ねね"の記憶がないと知って、落胆よりも安堵が勝った。"マオ"を知らないのなら、俺を見てもらえる。比べられて失望されることはないってな」
「…………」
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