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踏み込まれたくはないだろうか。そんな不安に、チラリとマオを見遣る。
マオは「ああ、いいぞ」とけろりと笑った。
茉優が知りたいのなら、と記憶を探るようにして宙を見る。
「といっても、俺も全てを覚えているわけではないんだ。断片的なものだし、細部はぼやけちまっていてな」
マオはゆっくりと語り出す。
前世の彼は、流浪の三味線弾きだったのだという。
顔は当然、今とは異なるけれど、同じように真っ白な髪と人間には珍しい薄紅色の目をしていたせいか、赤子のうちに捨てられて。
それを、とある琵琶法師が拾って育ててくれたらしい。
「ちょうどその頃、琵琶法師たちがこぞって三味線に移行していた時でな。小間使いをしながら生きていく術として三味線を仕込まれた。そのまま師匠らと暮らす道もあったが、もう少し色々と見てみたくなってな。師匠から三味線を一本貰って、気の向くままに全国を回った」
そうして辿り着いたある村で出会ったのが、"ねね"だったのだという。
ほとんど一目惚れだな、と。マオは遠い記憶の彼女を慈しむように言う。
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