前世の記憶がないので嫁にはなりません

11/13
前へ
/239ページ
次へ
 しばらくすれば、お化粧をしたままのお母さんが起こしにきてくれて、お祖母ちゃんと朝ご飯を並べてくれていたお父さんが「おはよう」って、ちょっと申し訳なさそうに微笑んでくれる。  その日も、同じなのだと。 「――白菊さん! 白菊さん、起きてる!?」  待ち望んだ車のエンジン音ではなく、激しくドアを叩く女性の声にぱちりと目を開く。  この声はたしか、斜め前のおばさんだ。もっと小さかった時から、何度もお菓子をもらったことがある。  ただならぬ様子に、私も起き上がって玄関に向かった。  朝ご飯の支度をしてくれていたのだろう。エプロンをつけたお祖母ちゃんが扉を開くと、おばさんは見たこともないような青白さで、 「茉優ちゃん、やっぱり来てたのね……!」  まるでいてほしくはなかったかのような口調で、おばさんはお祖母ちゃんに視線を移す、 「あのね、落ち着いて聞いてね。さっき、公園の角で事故があったみたいなのよ。いま、救急車を待っているみたいなんだけれど、それでその、その、事故にあった車がね……」 (まさか)  予感に、駆け出した。  驚くお祖母ちゃんとおばさんの間をすり抜け、裸足のまま全力で走る。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加