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猫又様は花嫁を迎えたい
夜も深まり、静寂に満ちた庭園。
勝手知ったる小道を通り抜け、暗闇に溶け込む離れに近づく。
あやかしであるこの身に、灯りなど必要ない。
相手が人間だったのなら、俺の存在など微塵も気付かないだろう。けれど生憎この邸宅に人間はひとりしか存在しない。
案の定、黒に沈んだ玄関口からぬらりと影が現れた。
「……こんな時間に何の用だ」
寝巻の浴衣に羽織をひっかけ、不機嫌を隠すことなく腕を組んで玄関から出てきた白い男。
既に就寝していたのだろう、髪に僅かながら癖がついている。
想定していた通りの出迎えに、「俺なりに気を遣ってやったんだが」と鼻を鳴らせば、「……そうかよ」と頭を掻いた。
あの人間に聞かれたくない話だと、気が付いたのだろう。
「で、主題は」
端的に問う赤い瞳は、他を従える者のそれだ。
あの人間はこの男を"優しい"などとのたまうが、それは己に限った話だと、いったいいつ気付くのか。
「監視につかせていた小鬼たちから連絡があった。件の男、探偵を雇ったようだ」
「……まだ諦めてなかったのか」
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