猫又様は花嫁を迎えたい

1/9

150人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ

猫又様は花嫁を迎えたい

 夜も深まり、静寂に満ちた庭園。  勝手知ったる小道を通り抜け、暗闇に溶け込む離れに近づく。  あやかしであるこの身に、灯りなど必要ない。  相手が人間だったのなら、俺の存在など微塵も気付かないだろう。けれど生憎この邸宅に人間はひとりしか存在しない。  案の定、黒に沈んだ玄関口からぬらりと影が現れた。 「……こんな時間に何の用だ」  寝巻の浴衣に羽織をひっかけ、不機嫌を隠すことなく腕を組んで玄関から出てきた白い男。  既に就寝していたのだろう、髪に僅かながら癖がついている。  想定していた通りの出迎えに、「俺なりに気を遣ってやったんだが」と鼻を鳴らせば、「……そうかよ」と頭を掻いた。  あの人間に聞かれたくない話だと、気が付いたのだろう。 「で、主題は」  端的に問う赤い瞳は、他を従える者のそれだ。  あの人間はこの男を"優しい"などとのたまうが、それは己に限った話だと、いったいいつ気付くのか。 「監視につかせていた小鬼たちから連絡があった。件の男、探偵を雇ったようだ」 「……まだ諦めてなかったのか」
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加