猫又様は花嫁を迎えたい

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「夜明けに落ちあい、逃げる手はずだったんだ。"ねね"が……少しばかり、荷物を持ちだしたいと言ったんだ。思えばその時にはすでに、腹を決めていたのかもしれない。"ねね"は、"マオ"を生かしたかったのだろう。だが"マオ"には、耐えられなかった」  白い指で己の腹を緩くさすり、 「例えばあの村に"神池"の天狗信仰がなければ。例えば"ねね"が、赤い目で生まれていなければ。例えば"マオ"があの村に立ち寄らず、二人が惹かれ合わなければ。なにかひとうでも違っていれば、悲劇は避けられたのかもしれない。何度も考えた。だがいくら考えたところで、過去はやり直すことなどできない」  マオはそっと、自身の小指を見つめる。 「全ては過去の記憶だ。契りを結んだ細い小指も、これで"マオ"のお嫁さんだねと笑った、"ねね"の幸せそうな顔も。守られてしまった後悔と、守ってやれなかった不甲斐なさ。別れ花のごとく咲き誇る、真っ白なハマユウの花」  開かれた両の掌が、空虚を掴むようして強く握りしめられる。
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