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もっとも、このいっそ憐れなほどの面倒さがあったからこそ、俺はコイツを、後継者として認めたわけだが。
(だが、まだ足りない)
俺は奥方様が使っていた部屋を見上げる。
あの人間は、あの部屋で眠っているはずだから。
「感動的な物語だと思うがな。お前が言いにくいのなら、俺が真実を話してやってもいいが?」
「朱角」
途端、冷えた気配が身を包んだ。
肌が粟立つ。これは殺気だ。それと、純度の高い上等なあやかしの妖気。
「茉優がせっかく忘れているんだ。わざわざあんな悲惨な話をする気はない。子供云々の話だって、"ねね"と交わした約束だった。"ねね"が得るはずの未来だったんだ。"マオ"ひとりの作り話じゃない」
今にも射んとする赤い目が、嫌にゆるりと細まる。
「いくら朱角とはいえ、俺の邪魔をするのなら容赦はしないからな」
(ああ、これだ)
ぞくりと背を這う畏怖に、俺は密かに口角を吊り上げる。
低級のあやかしならば、卒倒ものの妖気。俺はずっとこれを待っていた。
俺の"主人"になるのなら、かしづくに相応しい"あやかし"でなくては困る。
大旦那様のように。
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