猫又様は花嫁を迎えたい

8/9

150人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
 もっとも、このいっそ憐れなほどの面倒さがあったからこそ、俺はコイツを、後継者として認めたわけだが。 (だが、まだ足りない)  俺は奥方様が使っていた部屋を見上げる。  あの人間は、あの部屋で眠っているはずだから。 「感動的な物語だと思うがな。お前が言いにくいのなら、俺が真実を話してやってもいいが?」 「朱角」  途端、冷えた気配が身を包んだ。  肌が粟立つ。これは殺気だ。それと、純度の高い上等なあやかしの妖気。 「茉優がせっかく忘れているんだ。わざわざあんな悲惨な話をする気はない。子供云々の話だって、"ねね"と交わした約束だった。"ねね"が得るはずの未来だったんだ。"マオ"ひとりの作り話じゃない」  今にも射んとする赤い目が、嫌にゆるりと細まる。 「いくら朱角とはいえ、俺の邪魔をするのなら容赦はしないからな」 (ああ、これだ)  ぞくりと背を這う畏怖に、俺は密かに口角を吊り上げる。  低級のあやかしならば、卒倒ものの妖気。俺はずっとこれを待っていた。  俺の"主人"になるのなら、かしづくに相応しい"あやかし"でなくては困る。  大旦那様のように。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加