前世の記憶がないので嫁にはなりません

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 後ろから何度も名前を呼ぶ声がしたけれど、聞こえているようで聞こえてはいなかった。  心臓がばくばくとうるさい。  そんなはずない、足を汚してって、あとで叱られちゃうなんて考えながらも、振り切れない恐怖が襲ってくる。 (おとうさん、おかあさん……!)  足が止まる。よく遊びに行く公園のブランコの向こう側で、たくさんの人と、飛び交う怒号。  大きなトラックと、ブロック塀の間に挟まり潰れていた一台の車。  間違いなく、私が帰りを待っていた車だった。  あれから私はお祖母ちゃん引き取られ、たくさんの人に可愛がってもらいながら、大きくなったのだけれど。  いまだに長時間誰かの帰りを待つのは、苦手なままだ。 (待ってくれているのなら、ちゃんと、帰ってあげたい)  私は鞄を抱きしめ、意識的に顔を上げた。  マオの横顔を見つめる。 「"嫁"ではなくとも、よろしいのであれば。ご迷惑でなければ、私もご一緒させてください」 「茉優……!」  感激しようにして瞳を輝かせたマオが、はっと前を向く。何度も私に指摘されているからだろう。
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