前世の記憶がないので嫁にはなりません

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 彼はそのまま溢れんばかりに破顔して、 「ありがとうな、茉優! 今世でもこんなに優しくしてもらえるなんて、俺は世界で一番の幸せ者だ!」 「お、おおげさですよ! ただ事情説明に同行するってだけですし……」 「そんなことないさ。かなり勇気のいる決断だったろう? あ~~茉優! 一日でも早く夫にしてもいいって思ってもらえるように、俺、頑張るからな!」 (え、夫になるのは確定してるの?)  たとえ本当に前世で夫婦だったとしても、今の私は彼の知る"ねね"じゃない。  共有できる思い出もない、完全に別人なのに、"面影がある"ってだけで突っ走りすぎでは……。 (けれどすぐに、思い直してくれるかな)  マオも今はまだ、前世の記憶に引っ張られているだけ。  今の……"茉優"である私を知れば、きっと結婚の話はなかったことにしようと言い出すはず。  だって彼が愛したのも、嫁に迎え入れたのも。  約束を交わしたのだって、何も持たない私ではなく"ねね"なのだから――。 (あ、あれ?)  ちくり、と。胸に小さな痛み。  驚きと、自己嫌悪が混ざり合う。 (なにを勝手に傷ついているんだか)  求められていたのは私じゃない。わかっていたことだろう、と。  マオには気付かれないように、薄く息を吐きだした。
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