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知らずと下がっていた視線を上げると、彼は天井を仰いでいた。なぜ。
「マオさん……?」
(も、もしかして、やっぱり気分を悪くさせてしまった……!?)
急ぎ謝罪を口にしようとした刹那、
「茉優」
がしりと両手が包まれ、マオが腰をかがめて視線を合わせてくる。
(え、ちょっと、顔が近……っ)
「さいっこーに男前になってくっから、ちょっとだけ待っててな。親父のことは、適当にあしらっておけばいいから」
「へ? あ、はい」
「さっそく寂しい思いをさせちまってごめんな。けれど茉優が、こんなにも嬉しいおねだりをしてくれたのだから、全力で応えるべきだと思うんだ。だから」
行ってくる、と。
耳の後ろでちゅっと音を響かせて、離れたマオが廊下を駆け足で進んで行く。
(……い、いま)
咄嗟にばっと耳後ろを手で覆う。
触れてはいない。音だけの"フリ"だった。
だけど、だけど。
縮まった距離も、掠めたかおりも。ぜんぶ、ぜんぶ本物だった。
(し、心臓がいたい……!)
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