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(せっかく優しくしてくれたのに、がっかりさせちゃうの、申し訳ないな……)
だからって、無責任な嘘はつけない。
タキさんに通されたのは、長い縁側の突き当りに位置する、青々とした雄大な庭が望める一室だった。
私の部屋よりも広い和室。中央には畳のような一枚板の座卓があって、床の間には『商売繫盛』の掛け軸が。
軒の下の狸といい、マオの家はなにか商売を営んでいるのかもしれない。
「こちらでお待ちくださいませ」
タキさんの言葉に、私は上座のルールを思い起こしながら、床の間から一番離れた席へと向かった。
開かれた障子から見える美しい庭を、背にする形だ。
と、すかさずタキさんが、
「床の間側をお使いくださいませ」
「え? ですがこちらは……」
「お待ちの間、大旦那様ご自慢の庭を楽しんでいてほしいとのことです」
誰からの言伝かなんて、野暮なこと。
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
ぺこりと頭を下げてから、掛け軸側を空けて腰を下ろす。さすがにこちらは、マオに座ってもらいたい。
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