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タキさんは「お茶をお持ちいたします」と会釈すると、障子を閉めて、足音を立てずに去っていった。
正面は障子だけではなく、縁側のガラス戸も開けているらしい。夕陽を反射した若々しい草木の香りが、ときおり鼻腔を掠める。
ふ、と。薄く緊張の息を吐きだした。
親父のほうが嫁として迎えようとしてくるから気を付けろと言ってた、マオの言葉を思い出す。
(本当に、楽しみにしてくれてたんだ)
だというのに。
現れたのが嫁になるどころか、どう言い訳をするかばかり考えている可愛げのない女で、申し訳ない。
「――少し、失礼するね」
「!」
突然の声に、跳ねるようにして顔を上げる。
見れば外から縁側に上がってくる、男性がひとり。黒交じりの灰色の髪を軽く流し、茶色の着物にグレーの羽織を重ねている。
歳はタキさんよりも若い。五十後半から六十くらいだろうか。
「よっと」と立ち上がったその人の手元には、竹筒の花瓶と、そこに活けられた、白く小さな花弁の連なる房が美しい花。
男性はにこりと優し気に目元を緩めると、
「飾らせてもらってもいいかな?」
「へ? あ、どうぞ!」
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