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涼やかだった床の間を指しているのだと理解して、私は何度も頷く。
彼は「ありがとう」と笑み、いそいそと歩を進めた。
「つい花の手入れに夢中になっちゃって。驚かせて、申し訳ないね」
私は「いえ」と会釈しながら、
「突然押しかけて来てしまったのは、私のほうです。お邪魔をしてしまい、申し訳ありません」
頭を下げながら、この人はどなただろうかと考える。
和服が随分と馴染んでいるし、タキさんと同じで、ここで働くひとりだろうか。庭師さんとか。
さすがに大旦那様みずから、花の手入れはしないはず。
床の間の前まで進んだ男性は「お邪魔だなんて。歓迎するよ」と膝を折った、刹那。
「おっと」
「!」
よろけた拍子に、花瓶から水か数滴跳ねた。
「お着物、大丈夫ですか?」
急いで鞄からハンカチを取り出し、その人の側へ。
驚いたように目を丸めながらも頷いたのを確認してから、私は畳に跳ねた水にハンカチを押し当てた。
(畳を拭く時は、こすっちゃ駄目なんだよね)
傷つけないように注意を払いながら、乾いた面を何度かに分けて、ポンポンと優しく叩いて水分を拭きとっていく。
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