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「ご挨拶が遅れまして、申し訳ありませんでした……!」
私は即座に低頭し、急いで名を告げる。すると、
「おや、怒らないんだね」
「……え?」
穏やかな声の顔を上げると、その人は楽し気な顔で対面の席に膝を折って、
「あなたを一人にして、わざと名乗らずに"勘違い"させるような態度で接して。無礼だと怒って当然だろうに、あなたが謝ってしまった」
「す、すみません……」
「ほら、また。あなたが謝るべきことなど、なにひとつありゃしないのに。……なるほど。あの子が唯一無二の"嫁"だと、探し回るわけだ」
その人の黒い目が、成長した幼子を見るように細む。
「あの子の養父の、狸絆です。正直なところ、見つかるとは思ってもいなかったんだけれどね。探し始めて百年ちょっとで巡り合わせてくれるのなら、神も捨てたものではないかな」
(百年ちょっと……?)
それは、前世の私達が生きていたのが百年前という意味だろうか。
(でも、いま"探し始めて"って……)
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