153人が本棚に入れています
本棚に追加
夢で出会った彼が旦那だと言うのですが
――失敗した。
窓の外は時速八十キロで流れていくビル群。
隣で上機嫌にハンドルを握る男を横目でちらりと伺いながら、私は自身の迂闊さに頭を垂れた。
定期的にハサミを入れているのであろう、赤みの強いピンクの髪。カジュアルに見えるシャツも、きっと拘りのブランドのものなのだろう。
髪も服装も、清潔感とTPOさえわきまえていればいいかな思考の私とは、正反対もいいところ。
とはいえ今を含め彼と会う際は常にパンツスーツを着用しているため、きっと彼はそんな私の嗜好など知る由もない。
(……いったい、どこまで行くんだろ)
訊ねてもいいものか迷ってしまうのは、彼は私の私的な知り合いではなく、仕事における"お客様"だから。
保険会社に勤めていると、お客様からお客様へと繋がっていくのはよくあることで。
この彼――片原さんも、既に担当していたお客様からのご紹介だった。
私よりも二つ年上の二十七歳だという彼は、私はあまり詳しくはないのだけれど、人気Vチューバ―の"中の人"なのだという。
最初のコメントを投稿しよう!