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「事情が変わったんだ。どうせ、茉優の話なんて聞かずにホイホイ進めようとしていたんだろ」
マオは私と狸絆さんの間に割り込むようにして、着席する。
やっとのことで離れた距離にほっとしたのもつかの間、彼は当然のように私の右手をぎゅっと握りしめてきた。
マオさん、と声をかけそうになったのを、喉元で押しとどめる。
なぜなら狸絆さんを向くその横顔は真剣で、狸絆さんもまた、つぶらな黒目で見極めるようにして、マオを見上げていたから。
「それは、茉優さんは嫁にはならないということかな?」
「いや、嫁には、なる。じゃない、"なってほしい"だ。俺はこれまでもこれからも、嫁は茉優しか考えられない。けど、茉優にはちゃんと、自分で決めてほしいと思っている。前世の記憶がなくても、時間がかかってもいいから、俺を好いてほしい」
ぐっと、力を込められた掌。マオが私へと視線を移した。
赤い瞳が、まっすぐに私の姿を閉じ込める。
その眼差しの強さと掌の熱さに、マオの切実な願いが込められている気がした。
「マオさん……」
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