猫又と化け狸

21/24
前へ
/239ページ
次へ
 目が逸らせない。かすかな息苦しさを覚えるのは、心臓が強く胸を叩きすぎるからだろうか。  マオは「茉優」と優しく両目を緩め、空いた右手でそっと私の頬に触れると、 「だからまずは、茉優の願いを叶えないてやらないとな」 「………え?」  ボフン! と既視感のある白煙。  立ち上がったのは、マオのいた場所。 「さ、撫でるなり抱きしめるなり、好きにしてくれ!」  煙が薄れ、嬉々とした声と共に現れたのは。 「……あれ?」  ぴんと上を向いた三角の耳。しなやかな体躯は狸のそれとは違い、赤い目もまた、彼の養父のようにつぶらなまん丸ではなく、目尻がくっと上がっている。 「……マオさんは、化け猫さんだったのですか?」 「正確には、猫又だな。ホラ、尻尾が二つあるだろ」  示すようにして振られた細長い尻尾は、確かに二本ある。  猫又。猫のあやかし。 (だから、たくさんの猫ちゃんを……) 「ほら、いつでもいいぞ。それとも、猫は嫌いか?」 「いいえ。猫は好きですが……」  撫でられ待ちをしてくれているのは分かるし、正直、とても撫でたいのだけれど。  どうしてか、狸絆さんの時よりも人間姿のマオの影がちらついて、どうにも緊張が勝ってしまう。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加