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この後に他のアポイントは入れていないけれど、せめてどこに向かっているのかは知っておきたい。
こちら持ちだからと高級店に連れていかれても困るし、あまり遠くに連れ出されても帰りの代金が心配になってしまう。
「あ、あの、片原さん」
発した声に察してくれたのか、片原さんは「ああ」と気づいたように横目でちらりと私を見て、
「大丈夫。もう少しだよ」
雰囲気的にそれ以上は追及できなくて、ともかく行けばわかるかと目的地への到着を待つ。
ほどなくして、車は民家の立ち並ぶ路地へ。さらに進んで、看板も出ていない古びた雑居ビルの地下駐車場に入っていく。
(こんなところにカフェが……?)
それともここで車を降りて、歩くのだろうか。薄暗い空間に置かれた車はまばらで、人の気配はない。
片原さんが車を止めたのは、その中でも壁を背にした奥の角。
それもよくよく見てみれば、壁と私側のドアの間は数センチしかあいていないような……?
「片原さん。すみません、これだとちょっと出れそうにないのですが……」
この状態でドアを開けようものなら、確実に扉に傷をつけてしまう。
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